網膜剥離、眼底出血

網膜剝離とはどんな病気ですか?

網膜は、目をカメラに例えるとフィルムに相当し、光を感じる大切な部位です。 主に近視や老化が原因で、硝子体が液化して、液化した部分と線維が濃縮されてゲル状になった部分に分離する変化(通常、飛蚊症を伴います:飛蚊症についてはこちら)が進むと、ついには硝子体が網膜から剥がれていき、網膜が引っ張られることで破れて穴(網膜裂孔といいます)が生じ、網膜剥離の原因となります。
神経の膜である網膜がその外側にある網膜色素上皮という層からはがれる(剥離する)と、網膜の細胞が不可逆的に障害されます。 自然に治ることはごく稀で、放置すれば進行し、失明につながります。

眼底出血とはどんな病気ですか?

眼底出血

眼底とは目の奥を意味し、具体的には硝子体、網膜を主に指します。
ですので眼底出血はそういった場所に出血している状態を言います。
出血とは血管の外に赤血球を中心とした血液成分が漏れ出ることを指しますので、眼底出血については、①網膜には血管はありますが、硝子体はゼリー状のコラーゲンでできた透明成分で血管を含んでいないこと、②出血といっても現在進行形で血がどくどくと流れているよりもむしろ、血管が一時的に破綻して、血管中の血液成分が、例えば硝子体腔内や網膜組織内に漏れ出てそこにとどまっていることを示します。
網膜内の出血の原因で多いのは、加齢黄斑変性糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症です。一方、硝子体内の出血の原因で最も多いのは、糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症、そして網膜裂孔の際に生じる網膜の切れ目が網膜血管を含んでいるときに起こるものです。

飛蚊症で来院された患者様に見つかった、硝子体出血(赤楕円内)とその原因と考えられる網膜裂孔を含む網膜格子状変性(青楕円内)。硝子体出血は眼底検査では赤色ですが、この撮影法では網膜に映った影が撮影されているので黒い墨のように見えます。患者様も硝子体出血はその影を見ているので、通常赤く見えず、「黒いモヤモヤとしたもの」と表現されることが多いです。

硝子体出血はその程度が弱い場合は元の病気の治療を行うほかは経過を見ることがあります。その場合、徐々に吸収され気にならなくなることもあります。程度が強かったり中心にあって見え方に影響を与えたりする場合、また出血の原因の元の病気に対して手術が必要と判断される場合は、手術を行います(硝子体手術)。

飛蚊症とは

飛蚊症とは、明るい所や白い壁、青空などを見つめた時、眼の前に虫や糸くずなどの『浮遊物』が飛んでいるように見える現象をいいます。視線を動かしても一緒に移動し、まばたきをしても眼を擦っても消えなくて、ふつうは暗い所では気にならなくなります。症状が、眼の周りに蚊が飛ぶ様に見えることから、この名前が付きました。飛蚊症
硝子体は本来透明で均一なゼリーのようなものですが、加齢などの変化で液化した部分と線維が濃縮された部分に分離していきます。この線維が濁りとなり、影絵のように黒い影が網膜に投影されることで飛蚊症が生じます。他に病的な状態がない場合、生理的飛蚊症と呼ばれます。
一方、影を作るものにほかに眼内の出血(硝子体出血)、炎症によるもの、などがあり、これらは網膜剥離とともに病的飛蚊症と呼ばれます。ご自身では生理的飛蚊症か病的飛蚊症か区別はつきませんので、受診して眼底検査を受けることをお勧めします。

網膜剥離

硝子体の液化した部分と線維が濃縮された部分に分離する変化が進むと、ついには硝子体が網膜から剥がれていき(後部硝子体剥離といいます)、この時もともと硝子体が網膜に癒着している部分があると網膜が引っ張られることで破れて穴(網膜裂孔といいます)が生じることがあり、網膜剥離の原因となります。
飛蚊症で来院された患者さんに眼底検査を行い、見つかった網膜裂孔(赤丸内)。

網膜剝離

網膜剥離の治療はどう行うのですか?

網膜裂孔のレーザー

網膜裂孔の段階で、網膜剥離が進んでいない早期の場合はレーザー治療で治ることもあります。(網膜裂孔のまわりをレーザーで凝固して固定する方法で、所要時間数分の外来処置で行うことが出来ます。)
網膜裂孔の周囲を2重・3重にレーザーで囲んだ状態。レーザー痕はこのあと1週くらいで固まり、網膜剥離に進行するのを防ぎます。

網膜裂孔だけの状態の場合、飛蚊症など軽微な自覚症状しかなく、そのまま放置されると知らないうちに網膜剥離が進行することがあります。飛蚊症など異常があれば、早めに受診ください。
網膜裂孔が網膜剥離に進行すると、飛蚊症の悪化、光が見える(光視症といいます)、視野異常、視力低下などが起こります。剥がれた網膜にはレーザー痕は付きませんので、網膜が元の位置に戻って剝がれないようにするために手術が必要になります。
手術では、網膜を引っ張る硝子体そのものを眼内の手術で切除して(硝子体手術といいます)、網膜裂孔を眼内のレーザー光線でその外側の網膜色素上皮細胞に接着させます。その固定のために、手術の最後に眼内に特殊なガスを目にいれ、そのガスが内側から網膜を押し上げて再接着させます。ガスが自然になくなるまでの間、一般に伏せた姿勢を1週間程度とる必要があります。普段慣れていない姿勢をとることで肩、腰などが痛くなるひとがいますが、伊丹中央眼科では特殊なマットレスをご自宅の安静でも用いていただくように貸し出して、楽に姿勢がとれるようにしています。

網膜剝離
網膜剥離

網膜剥離の術前(左)と術後(右)。網膜裂孔(赤楕円)から網膜剥離(青楕円)に進行していましたが、手術により網膜剥離は治り、視力は回復しました。
白内障手術同様、網膜剥離の手術も欧米では日帰り手術が一般的であり、国内でも入院に固有の負担の軽減のため、またコロナ禍での考え方の変化から、病院での入院を敬遠する考え方が広がっています。伊丹中央眼科では網膜剥離の治療も、地域に根差し、患者さんに寄り添って治療してまいりました。安心してご相談ください。また、病院での入院治療を希望の患者さんには、硝子体手術が可能な病院へのご紹介など行っております。

網膜剥離は早期発見が大切です。飛蚊症は眼底出血など他の病気の症状であることもあり、眼底検査を早めに受けることが大切です。
(写真はすべて自験例です。)